「今日もワインを傾けながら」
ある思い出を頭に浮かべながら、ワイングラスを傾ける。
自然と頬が上がり、気がつくと、鼻歌を交えている。なんともたまらない至福の時間。
私が思い浮かべている思い出とは、フランスのボジョレー地方、モルゴン村にあるドメーヌ・マルセル・ラピエールでの研修である。
”フランス自然派ワインの父 マルセル・ラピエール” からワイン造りを引き継いだ マチュー・ラピエールと カミーユ・ラピエールの二人。
偉大な父の早すぎる死を乗り越え、周りからのプレッシャーをよそに、ボジョレーの地に深く根ざしたラピエール家のワイン造りと二人の情熱により、年々進化をしているドメーヌ。
私の研修の始りは、ブドウ畑にもモルゴン村にも、もっともエネルギーが集まる8月終わりの収穫時期。
初めて行く国で、聞きなれない言語に囲まれながら、初めての仕事。生活をするだけでもすべてが新鮮ですべてが不安だった。もちろん、コミュニケーションもうまくとれずにいた。
“来た者はどんな者でも受け入れる”
不安を抱えていた私に、マチューとカミーユは笑いながらマルセルから引き継いだ精神を教えてくれた。収穫の慎重な時期にも関わらず、私を快く受け入れてくれた二人を見ると、私の抱えていた不安が馬鹿馬鹿しくなった。それだけではない、ドメーヌで働く働き手たちは笑顔が絶えない。辛い体力仕事をしていても辛さを笑いに変え、誰かが歌を口ずさめば、いつの間にか大合唱になる。気づいた時には、私は不安に思っていたことをすっかり忘れて混じっていた。
“感情と思いは伝染する”
私はそこで身をもって感じた。マルセルから伝わった感情と思いがマチューとカミーユに、そして、働き手にも伝わっている。
そして、彼らのワインを口にして感じた。
“ワインにも感情と思いが伝染する”
そう確信しながら、もう一口ワインを口にすると、私の頬は上がっていた。
グラスを傾けると不思議とエネルギーがみなぎってくる。たった1年の研修で彼らのことを知ったつもりでいた自分が恥ずかしくなり、彼らが生み出す壮大なスケールをまったく計り知れていなかったことを思い知らされた。
“この感情、思いを他の方にも伝えたい”
私は彼らのワインを口にしてから、そう考えるようになった。
世界には沢山のワイン生産者が、様々な感情、思いを持ちながら今日もワイン造りをしている。生産者の感情、思いが1本1本のワインに伝染しているのだ。
私は、もっとそれを知りたい。そして、伝えたい。
私は今日もワインを傾けながら、頬を上げ、鼻歌を口ずさむだろう。
と、初心を思い出すためにも入社したての頃に考えたコラムを載せてみましたが、新店舗では、マルセル・ラピエールのワインが並びます。数に限りがございますが、是非、新しいカーヴ・ド・ユニソンにお立ち寄りいただき、マルセル・ラピエールのワインを手に取ってみてください!